投稿日:2015年04月05日

【札幌 弁護士コラム】公益財団法人が保有する株式の信託

公益財団法人は一定の公益目的のために設立された法人ですが、法人の財産として他社の株式を保有するに至った場合にはその株式を管理しなければなりません。株式を管理することは、議決権の行使や株式自体の処分をどうするかという問題をはらむものです。しかしこれらは公益財団法人の本来的な目的ではないため、どのように対応するか、公益財団法人内部での問題となりえます。そこで公益財団法人の保有する株式を第三者に信託し、管理処分を委ねることはできないのでしょうか。

 

(1)株式を信託するメリット

まず、株式を信託した場合に、公益財団法人にどのようなメリットがあるかを確認しましょう。

公益財団法人が株式を信託し、株式の名義人を公益財団法人以外の第三者(受託者)とすることで、受託者に株式の管理を行わせることができます。これにより、公益財団法人が主体として管理しなくてよくなるため、株式の処分等について公益財団法人の決議を不要にすることができます(但し、定款等で一定の制限が課される場合はあります。)。

また、議決権行使の権限を受託者からさらに特定の者(指図代理人)に与えることができるため、公益財団法人の議決権を外すことができ、公益財団法人が議決権行使の都度、意思決定を行わなくてよいことになります。

 

(2)基本財産に関する規制

一方、財団法人において、「目的事業に不可欠なものとして定款で定めた基本財産」があるときは、理事は「定款で定めるところにより、これを維持しなければならず、かつ、目的事業を妨げることとなる処分」をしてはならないと規定されています(一般法人法第172条第2項)。基本財産に関する規定はこれだけで、特に省令などへの委任規定はないため、何が基本財産にあたるかは解釈に委ねられています。ここで、株式が基本財産に該当するとすれば、公益財団法人が自由にこれを処分する(信託する)ことができなくなってしまいます。

基本財産にあたるかどうかについて、実務的には以下のような取扱いがなされているようです。

①「目的事業に不可欠なものとして定款で定めた基本財産」があるかどうかは法人自らが判断する(財団法人でも「基本財産」というものはなくてもよい)

②仮にそのような「基本財産」を定款で定めた場合、その維持・処分について理事に課せられた注意義務と責任の具体的内容は、法人の判断により骨子を定款で定め、詳細を規則等で決めるなど一定の配慮を要する

 

(3)信託の可否

以上のことを踏まえて財団法人が株式を第三者に信託することができるかについては以下のようなことがいえます。

①財団法人が株式の譲渡を受けたとしても基本財産に含める処理としなければ処分可能(財団法人の目的である事業を行うために不可欠とはいえないと解釈できる場合。)

②信託の目的は議決権の行使を避けるためのものであるとの解釈のもと、株式を信託したとしても財産的価値は維持できており、財団法人の目的である事業を行うこと妨げることにはならない

これらのことから、財団法人が自ら保有する株式に信託を設定することは、原則的に一般法人法第172条第2項に違反しないと考えられます。仮に同条項に違反することが疑われるようであれば、財団法人の定款において信託による株式の管理を規定しておくことが有効であると考えられます。

 

(4)結論

以上より、公益財団法人が株式を信託して管理することは原則として可能であると考えられます。但し、信託の設定にあたっては必要な手続を踏むとともに、受託者及び指図代理人が適格な者であるかを十分に吟味する必要はあると考えられます。