投稿日:2015年03月11日

【札幌 弁護士コラム】契約書に書けない違約金

契約(契約書)は、人と人とが騙されたり、脅されたりしていない状態で合意をすることによって成立します。合意の内容があまりにも反社会的であったり、実現不可能であったりする場合を除いて、原則として当事者間で自由に決めることができます。

しかし、事業をやっている者(会社)と一般消費者が契約を結ぶ場合には消費者契約法等による一定の規制がかけられます。これはいくつかの法律が、知識や資金力の乏しい消費者を守るために消費者に一定の有利な配慮をしていることによるもので、これらの法律をまとめて消費者法といいます。

消費者法にはいろいろな規制が定められていますが、よく問題となるのは「損害賠償の額の予定」や「違約金」の条項です。

これらの条項は主に、事業者が主導て作成した契約書において「~の場合は金〇万円を支払う。」という形や「~の場合は代金額の〇倍の金額を支払う。」という形で現れます。これらは事業者が消費者に対して違約金等をちらつかせて、「きちんと支払いをしないと金額が増えますよ」等と迫ることで契約条項を守らせる(主に代金等の金銭を支払わせる)ことを目的として定められています。

それではこのような「損害賠償の額の予定」や「違約金」の条項は自由に定めることができるのでしょうか?

答えは「No」です。消費者契約法第9条は以下のように定められています。

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)

第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
この条文は要するに「消費者が契約を破ったからといって事業者が受ける平均的な損害を超えて賠償を請求できない」ということと、「年率14.6%を超える遅延損害金(利息に近いものです。)を請求できない」ということを定めています。
前者の「平均的な損害」というのはなかなか決め方が難しい概念です。例えば「特注の自転車を50万円で注文していたけれど、1か月前にキャンセルをしたら店はどれだけ損をするか」とか「1人5000円の参加費で100人のパーティーを予定していたけれども予定の3日前にキャンセルをしたらホテルはどれだけ損をするか」という問題です。店やホテルによって原価のかけ方や利益の取り方が異なるために一律に判断することは非常に難しいといえます。
現に、裁判所が「平均的な損害」を認定する場合に、訴訟法の特別な条文(民事訴訟法第248条)を使って概算で決定したという事例もあります。
ひとつの判断方法としては、業界団体(飲食業、旅行業、ブライダル業等の各団体)が作成している約款の雛形やマニュアル類を基準にしてみるということが挙げられます。業界団体は、当然ですがその業界に一番精通している団体ですのでどれくらいの相場観でキャンセル料を取るべきかということについても理解が深いため、そこが作成した雛形等は十分な説得力を持つものといえます。
皆さんが「店から多額のキャンセル料を請求されて、あまりにも高すぎるのではないか」と思った場合にはこのことを思い出してみてください。キャンセル料を減額してもらう交渉の余地があるかもしれません。
逆に事業をやっていて、規約や契約書等においてキャンセル料の規定を設けていたりする場合には消費者契約法で無効となることがないか、再チェックをしてみてください。