こんにちは、荒木でございます。
ブログで大変お久しぶりでございます(汗)。
夏の暑さにやられていたというのもありますが、結構いろいろと案件を頂いており、忙殺されていたというのがわりと本当のところです。
直近ですと、M&A案件のDD、投資案件のDD、M&A案件のFA、投資案件の発行体側での対応、債権回収訴訟、背任等に関する告訴、事業承継案件における信託設定、会社分割対応と、まぁいろいろとやらせて頂いております。
さて、そんなわけで相変わらずいろいろなことをやらせて頂いているわけですが、「何に価値を感じて頂けるか」というのはいつも頭をチラつく命題です。
殊に弁護士業務というのは、目に見える形がないため、なかなかに価値を感じて頂くのは難しいもの。
かといって、無駄に長い契約書を作って「それ、どうだ。」と言ってみてもそれだけで満足してもらえるかは別問題です(もちろん、実際にそれだけの項数がかかる業務では、価値をご提供できているものとは思っているのですが。)。
いかに弁護士業務、ひいてはサービス業において価値を感じてもらえるかは、以下のような視点があるように思います。
(1)コストアプローチ
(2)差分アプローチ
(3)安心感アプローチ
(4)ハローアプローチ
これらは私(荒木)が勝手に名付けただけですので、特に一般的なものではありません。
分析の視点の1つとしてお考え下さい。
まず、(1)コストアプローチ。
弁護士が手を動かした分だけ払ってください、という考え方です。
この考え方は企業が業務を外注する際に基本になる考え方で、弁護士でもタイムチャージ制にしているところ(当弁護士法人も基本的にはこれです。)においては最もなじみやすい考え方でしょう。
しかし、実際にタイムチャージ制を採っているのは、法律事務所だと東京、大阪あたりの大都市圏ばかりで、なかなか地方ではなじみがないかも知れません。
また、ユーザー側からすると「弁護士が本当にそれだけの時間の仕事をしているのか。」「アソシエイトをたくさん引き連れてきてチャージするのはどうなのか。」といった批判もあるところです。
次に、(2)差分アプローチ。
これは、「弁護士が入ったときと、入らなかったときとで得られる利益の差分が価値である。」という考え方です。
確かに、551の蓬莱よろしく、「(弁護士が)ある時!」と「(弁護士が)ない時!」とで結果(=感情)が変わりうることからすると、弁護士の価値がわかりやすいかもしれません(551のCMが分からない方(≒関西以外の方)には却ってわかりにくいかもですが。汗)。
弁護士会の旧報酬基準規程における「成功報酬」の概念も基本的にはこの考え方によるもので、市民権を得ているものといえるでしょう。
しかし、この考え方の弱点は、「弁護士が入らなかったらどうなるか。」ということがフィクションになってしまうことです。
実際にたまにあるのですが、例えば売掛金が滞納されているのに対し、弁護士から内容証明郵便を送ったところ、それと前後して相手方から依頼者の社長に連絡があって、すぐに和解してしまうようなケースがあります。
この場合、本当に弁護士が役に立ったのか、成功報酬を受けるに足る理由があるのか、疑問を持たれてしまうことがあります。
そのようなフィクションを乗り越えられるだけのエビデンスを持たければ、受託者側として正当性を持てないことがあるのには留意すべきでしょう。
そして、(3)安心感アプローチ。
「弁護士から意見をもらえて安心した。」「弁護士のレビューが行われた契約書だから相手方に堂々と示すことができる。」といったようなことを価値として認識する考え方です。
一般的に「なぜこの物を買うのか。」という問いに対し、日用品や食料など、需要の存在が明らかなものもありますが、部屋の中の調度品や愛玩用のペットなど、その価値が主観的に定まっているようなものも一定数存在します。
この考え方は、必ずしも財産的、物質的な効用を弁護士の価値としてみるものではないことにおいて、主観的な価値判断と言えるかも知れません。
この考え方によると、「弁護士が何かをしてくれる。」ということだけで価値を感じてもらえる可能性があります。
しかし、一方で、主観的な価値判断であることから、何かしらの理由で信頼関係が崩れたり、別の人からの意見で「価値を客観的に計るべきだ。」というもっともらしい批判を受けるともろい側面もあるのではないでしょうか。
最後に、(4)ハローアプローチ
これは(3)の延長線上にあるものです、「神様、仏様、弁護士様!」くらいの勢い頼りにされている場合で、報酬というよりは、お布施、寄付、寄進といったようなものに近いような発想に基づいて金銭が支払われるものであるする考え方です。
「ハロー」とは、「ハロー効果」に由来するものですが、「目立つ特徴が、対象の印象や評価に影響を与える現象のこと」を指します。
以前のように司法試験の合格率が3%程度で、まわりに弁護士の知り合いというのもまずいないといった世の中であれば、一手数、こうした考え方のクライアントもあったことでしょう。
その世界では、見積りなし、案件の対応方針不明、実際の対応内容も不明、最後に「はい、報酬はこれだけね。」ということで通っていたようです。
しかし、この情報化社会の世の中。
弁護士がどんな仕事をしているか、標準的な報酬はどうか、弁護士が対応方針を示したり業務報告をする義務があることなど、クライアント側の情報の非対称性が解消するにあたり、この考え方が主流でなくなっていることは間違いないでしょう。
このように、一言に弁護士(サービス業)が提供する「価値」といっても様々な考え方があるように思います。
そんな中で、自らの適正な利益を確保しつつ、クライアントが納得も得心も得られる合理的な提案をするというのは、それほど簡単なことではありません。
しかし、事業者としてこのことに思いを致さないわけにはいかないもの。
「いい仕事」をしていれば必ず報われる、という時代ではないのです(というか、そんな時代があったのでしょうか。)。
価値について鋭敏であり、価値について考慮を尽くすこと。
弁護士をはじめとするサービス業は、できているようでできていない、こういったことに目を向けることって重要なのではないでしょうか。