投稿日:2022年10月26日

【札幌 弁護士コラム】事業承継、M&Aが進まない本当の原因とは?

こんばんは、荒木でございます。

 

青森市と弘前市で事業承継とM&Aに関するセミナーを行い、札幌に戻って参りました。

せっかくセミナーもやってきたことですので、たまには専門職のところのお話をしてみたいと思います。

 

まず問題です。

事業承継、M&A、事業譲渡、会社の売却。

これらの違いって説明できますか??

 

…多分、難しいですよね。

私(荒木)もきちんと説明できる自信がありません(笑)。

 

それというのも、これらのうち、事業譲渡を除いては法律上の明確な定義がなく、人によって定義が違うため、一般の経営者からするとごっちゃになるのも無理はない話です。

これが事業承継やM&Aの話が、当事者である一般の経営者の方に伝わらない一因になっているように思います。

 

もう1つの事業承継とM&Aをややこしくしている要因が、会社の経営者と会社のオーナー(株主)の違いです。

「え?一緒じゃないの?」と思う人も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

日本では、会社における所有と経営が分離していないという文化(?)が長らく続いてきた歴史がある一方、法律上は所有と経営が分離しているというルールが作られてきました。

 

だからこそ、「俺はこの会社の経営者でオーナーだ。」という意識から、株を手放すのもイヤ、代表を降りるのもイヤ、土壇場にならないと会社の存続について考えたくもない、という方が多数いるのが現実です。

しかし、法律的に見れば、株主の地位と経営者(会社代表者)の地位は別であり、株を譲渡するかどうかという話は民法の話で個人に帰属する話である一方、代表を降りるかどうかという話は会社法の話で会社に帰属する話です。

これがごっちゃになってしまっているというのが現実にあります。

 

このように事業承継等についての用語の定義が定まっていない問題、経営者と株主の立場が混同されている問題があることが、スムーズな事業の引継ぎが行われない要因になっています。

私が最近直面した案件でも「事業は譲渡する。しかし、事業の一部を手元に残しておいて事業継続をしたいため、株を全部渡すわけにはいかない。」という売主側からの要望が出たため、スキームが固まらず、頓挫しているものがありました。

全部を渡してしまいたくないという心情はわからないでもないですが、法律的な部分をきちんと伝えれば理解が得られる案件ではないかと思ってしまったりもします。

 

M&A業界のプレーヤーは増加の一途を辿っているといわれていますが、業者が増えたからといって事業承継やM&Aがスムーズに進むとは限りません。

経営者やオーナーにきちんとした理解をしてもらい、ルールに従ったきちんとしたディールが増えることこそが廃業率の低下や地域産業の保護にとって大切なことではないか、と今回のセミナーを通じて改めて考えたところです。