投稿日:2022年01月16日

【札幌 弁護士コラム】「黒いダイヤ」の甘くない現実:地方創生事業の苦労から学ぶ意思決定基準

こんにちは、荒木でございます。

 

今日は仕事もそれほどないため、雑務を少々。

ときどきはこういった余白の日を設けることも精神安定上は大事ですね。

 

さて、今日の道新の朝刊に「美深キャビア 産業化厳しく」という記事がありました。

美深とは、「びふか」と読む道北地方の町ですが、記事によると38年前から(!)キャビアの原料であるチョウザメの飼育をしているそうです。

最初のころはあまり本気で産業化に取り組んでいなかったのと、チョウザメの生育には長期間を要する(キャビアが取れるまで10年前後かかる)ため、この間はずっと赤字を垂れ流してきたとのこと。

この間に商品化したのは2回だけで、昨年1月に20グラム入りのキャビアの瓶詰173個を販売し、同じく10月に400個を販売しただけで、売り上げとしては数百万円程度にしかなかならなかったようです。

(10月販売分はまだ完売してないみたいですね。

http://www.town.bifuka.hokkaido.jp/cms/section/soumu/nuv41p0000003ljs.html

養殖場を新装したこともあり、今後は産業化を目指していくとのことですが、町民の人口減少もあり、なかなか見通しは厳しいと記事では締めくくられています。

 

こういった話は地方の産業振興に関してよくある話なのでしょうが、個人の話に置き換えてみてもよくある話なのではないでしょうか。

 

1つ目は、目標設定が明確でないという点。

当初、この事業は「展示して観光客が楽しんでくれればいい、という緩い雰囲気」で始められたそうです。

このことから、この事業の出口として黒字化、産業化ということを想定しないまま進められたことが明らかです。

個人でも「なんとなく読書をしよう」とか、「とりあえずジムに行ってみよう」とか、目標設定があいまいなままで始めることはそうそう続くことはありません。

この意味で目標設定の重要性が浮き彫りになっているといえるのではないでしょうか。

 

2つ目は、足が長いことは息切れしがちという点。

この事業で取り扱っているチョウザメは、商品化できるまでに10年前後を要するものです。

すなわち、どう頑張っても産業化するまでの10年前後の間は黒字化する余地がありません(一応、観光資源にはなっていたのかも知れませんが、それほど収益が上がるものではないでしょう。)。

こういった足が長い話を実現するためには、資金的な余力とそれを継続するための人員が必須となりますが、この町にとってはかなり厳しい話のようです。

個人に置き換えてみると、全く触れたことのない分野の難しい資格試験に挑んだり、やったことのないピース数のジグソーパズルを始めるようなときで、途中で投げ出してしまうことがこれにあたるのではないでしょうか。

それというのも、途中の地点で一定の結果が出たり、何らかの見返りが生じたりするようなことがないと気持ちが続かないためです。

このため、足が長い話に取り組む時には、何らかの中間地点やチェックポイントを設けるなど、極力細分化していく工夫が必要となるものです。

 

3つ目は、「サンクコストの罠」に囚われているという点。

この事業では事業開始当初に事業場を開設した後、年間の維持費を3000万円かけているうえ、2017年には8億円をかけて養殖場を改修しています。

「ここまで事業費をかけたのだから何としてでも産業化を進めなければならない。」という思いをもってやっているそうです。

個人に置き換えても、「ここまで本を読んだのだから、役に立たなさそうだけど最後まで読まなければならない。」と思うようなことがあるのではないでしょうか。

こいったものを経済学用語では「サンクコストの罠」といって、過去に失って取り戻せないコストを合算して現在の判断をゆがめてしまうことがあります。

本来はそういった思考バイアスがあることを理解した上で、現時点での合理的な判断が何かを意識しておかなければなりません。

 

まぁそんなわけで、この事業にはなかなかに厳しい部分があることは否めません。

ただ、北海道内の自治体の事業としてやっていることですので、応援したいと思いますし、何とかうまく進むことを願っています。

一方で、個人の意思決定基準の参考事例として見た場合の材料として考えた場合には、多くの教訓を与えられる事例なのかも知れません。

いずれにしても今後の動きも注目していきたいと思います。

 

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