投稿日:2020年05月15日

【札幌 弁護士コラム】法律家が絶対にやってはいけないことと、企業に法律家が絶対に必要な理由との関係

こんばんは、荒木でございます。

 

今日は朝から社外監査役を務める土屋ホールディングスの取締役会、監査役会でした。

午後は、相次いで案件が止まっている中で微妙に動いている労働案件対応など。

 

さて、突然なのですが、法律家が絶対やっちゃいけないことって何だと思いますか?

もちろん、薬物とか、痴漢とか、盗撮とか、飲酒運転とか、そんなのもありますが、私(荒木)が職業的に絶対ダメだと思っていることがあります。

 

それは、「官庁などに対して、ひらに訊く」ということです。

これを見て、士業の方で「ドキッ!」とされた方も一定数いるかも知れませんし(笑)、一般の方は「何がダメなの?」と思われたかもしれません。

 

少し考えてみるとわかることなのですが、まず、行政と立法は近いように見えて、本来的に全く別のものです(今騒いでいる検察庁法改正と根は同じで、三権分立の問題です。)。

「官庁」というと行政の役割ですが、「士業」というと(監督官庁があるにしても)立法機能によって作られた法律にのみ拘束されるべき存在です。

それにもかかわらず、行政に対して意見を求め、それに従うということは三権分立を否定することに他ならず、士業としての存在価値がないことになってしまいます。

 

確かに、日本の行政は比較的親切であると思える部分もあり、かつ行政解釈の守備範囲が広いため、事を進めるにあたっては、行政に訊かざるを得ない部分があることは否めません。

しかし、法律家たるもの、条文の根拠も調べず、判例にも当たらないでいきなり官庁に質問するようなことがあってはならないはずです。

 

「日本」という限定を付けて話しましたが、これが軍事政権だったらどうか、という仮定の話があります。

全部が全部ではないかも知れませんが、軍事国家が政権を握っている国家には法律がないといいます。

実際に、長らくポル・ポト派が統治していたカンボジアに、日本政府の協力で近代の民法を導入しようとしたとき、それまでの法律の条文がなくて大変苦労したという話を聞いたことがあります。

なぜ、国民にわかる形で法律というルールを設けないか、というと、ルールが分からなければ権力者に訊きに来るしかないのであり、権力者はそこで自らの有利に働くルールを伝えればいいため、統治がしやすくなるからです。

 

日本に話を戻すと、私企業が事業を行う場合ではどうでしょうか。

多くの企業は行政に質問を投げかけ、その回答を疑いもせず、それに従って行動しているのではないでしょうか。

これはいくら安倍政権の支持率が低いとしても、行政という存在自体に全幅の信頼を置いているからの行動です。

ここで突然、行政が裏の顔を見せ、これまで言ってきたことをひっくり返されたらその企業はどうなってしまうことでしょうか。

おそらく、無事で済むようなことはありません。

 

企業には必ず法律家がついていなければならない、という一因はここにあるわけです。

法律の解釈に当たっては、本来的に行政と私人は対等な立場にあるはずです。

しかし、対等な立場に立つためには、法律知識が必要です。

一般の企業が、行政に飲み込まれないためには法律知識が必要なのであり、その知識を補充する役割が法律家にはあるわけです。

 

これから行政に何らかの質問をする前に、このことを思い出して頂ければ、法律家の必要性を感じて頂けるのではないかと思います。