投稿日:2018年10月02日

【札幌 弁護士コラム】いや、ホントに人を切るって大変なんですよ、というお話

たまには法律ネタも書かなければ弁護士であることを疑われそうなので今日は珍しく法律ネタです(笑)。

私(荒木)は、顧問業務を数多く取り扱っていますが、顧問先からのご相談で圧倒的に多いのは労働関係の相談です。
残業代や従業員のミスによる損害の処理などのご相談も多く寄せられますが、何と言っても労働問題の中心となるのは従業員を解雇できるかどうかという問題です。
解雇という言葉を少し広げて言うと、会社にとって都合の悪い、又は働きの悪い従業員をいかにやめさせるかという課題に行き着きます。

この前提としては、会社と従業員との間では雇用契約(労働契約)によって契約関係が成立していますが、この契約関係をいかに断ち切るかというのが解雇(労働関係の終了)が可能かどうかという問題です。
大前提としては、会社も従業員もひとつの法的主体ですので、どのような契約を結ぶか、契約を辞めるかは契約締結の自由の範囲内の話です。
しかし、会社と従業員ではその資金力や社会的地位の違いによって、大きな経済格差があります。
有り体に言えば、会社は強く従業員は弱い存在です。

このため日本の法制度では、労働法において労働者が厚く保護される立場にあります。
従業員にとって、労働関係が終了してしまうのは、すなわち給与が得られなくなってしまい、直ちに生活の基盤が欠けてしまうことを意味します。
このため日本の法制度では、労働関係の終了に関しては厳しく規制をしています。
会社は労働関係が発生した後、解雇によって従業員との労働関係を終了させる権限(解雇権)を持っていますが、この解雇権は法律によって制限されており、それが濫用された場合には解雇が無効となります。
しかし、現実には、原則が解雇権を使えるということではなく、解雇権濫用ではないということを会社が示すことによって、初めて解雇が有効となるといったように、原則と例外が逆転してしまっているのが現実です。

この状況を前提として、安易に会社が解雇をしてしまうと後に従業員から解雇が無効であるとの主張を受け、紛争に発展することが多々あります。
そして裁判になった場合には、会社が解雇をしたことに関していかに正当性があったかということを主張立証しなければなりません。

会社にとって怖いのは 解雇が無効となった場合です。
この場合従業員は従業員としての地位が存続することとなり、 解雇が無効となってからの賃金を請求することができます。
このため例えば月給30万円で働いていた従業員を解雇した後、その解雇が無効として争われ、訴訟に1年間かかったとして、結果的に解雇が無効と判断されたとしましょう。
この場合、この従業員はこの1年間ずっと従業員の地位を持っていたことになりますので、概算でも360万円を請求することができます。
そして会社は360万円を支払えばそれで終了かと言うと、そうではなく、さらに解雇事由がない限りは雇用関係は継続されることになります。

このことから解雇が無効になるということは、会社にとっては大きなリスクと言えます。
しかし、このようなリスクは十分に認識されているとは言えません。

本当にこのリスクを肌身に感じているのは、実はこのような解雇無効訴訟を経験した弁護士だけなのかもしれません。
リアリティをもってこのリスクを考えた場合、安易な解雇処分ということは容易なことではないことが分かるはずです。

解雇無効のリスクについては 多くの人が指摘しているところではありますが、なかなか伝わらないのが現実です。
少しでもこのようなリスクを考えて会社経営に活かして頂ければと願ってやまない所存です。