投稿日:2018年07月17日

【札幌 弁護士コラム】「成年後見制度の闇」を読んで

最近、「成年後見制度の闇」という本を読みました。

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この本を要約すると「成年後見制度は弁護士や司法書士といった、利権を持った専門家のために運用されており、裁判所もいい加減な審査を行っており、誠にひどい制度であるから、安易に使わないほうがいい。」といった論調で書かれています(若干、不相当な要約の部分もあるでしょうが、それほど外れてはいないと思います。)。

この本が弁護士で与える示唆としては、成年後見制度の運用を改善すべき、というものもあるでしょうが、それ以上に弁護士の職責や仕事に対する考え方というものがあります。
もちろん、全ての弁護士がこの本が批判するような仕事をしているわけではないですが、この本が批判するような弁護士が多数存在することもまた事実です。
ここでいう弁護士というのは「金に汚く、実態に即した案件処理をしようとせず、他者に責任転嫁し、価値提供とは無縁の仕事しかしない」といったものです。

確かに弁護士は一般の人には認められていない特別な職務権限が与えられており、裁判所から氏名されて成年後見人となる立場を与えられています。
成年後見制度に関していえば、(任意後見として依頼者から特に選ばれる場合を別として)頼みもしないのに裁判所が勝手に選任して弁護士が成年後見人になるというパターンがあり、これが批判の対象とされています。

但し、ここでの事の本質が何かというと、このように勝手に弁護士が成年後見人に就任するという制度自体もさることながら、弁護士がその関わる人に何を提供しようと考えているか、ということです。
ここで弁護士が「楽して稼ぎたい」とだけ考えているようであれば、この本が批判するような事態に至ることが明らかです。
しかし、成年後見人として選任されたときに、依頼者ならずとも被後見人やその家族に対していかに価値提供ができるかを意識していれば、何もせずに成年後見人としての報酬を得ようということにはならないはずです。
すなわち、制度自体の不備よりも、ここで取りざたされるべきは弁護士の職務に対する姿勢なのです。

この本が強調しているのは制度設計自体の部分もありますが、制度自体が信用ならないということであれば、法定成年後見を回避する手段はいくつかあります。
その中でも、認知症等の精神疾患が発症する前であれば家族信託の活用は極めて有力な手段となります。
家族信託を設定していれば、月々定額で弁護士に報酬を支払う必要もないですし、裁判所に監督される必要もありません。

この本がやや物足りなかったのは、成年後見制度を批判するばかりでその解決策の提示に乏しいところでした。
弁護士を初めとする専門家も使い方なのであり、成年後見制度以外にも(成年後見制度以外であれば)家族信託の契約書を作るなど、有用な使い方があることを示してもらいたかったというのがこの本を読んでの本音の感想の部分です。