昨今、弁護士業界の不況が取り沙汰されております。
この大きな原因というのが無計画というべき弁護士数の増加政策にあったと言われています。
当然、同じパイの市場にプレーヤーが増加した場合には1プレーヤーあたりの収入は小さくなるのが市場原理であるといえます。
しかし、私は必ずしも弁護士数が増えたことだけが不況の原因であるとは考えておりません(というかほかの人の実際の懐具合を知っているわけではないので、不況なのかどうかもよくわかっていません。)。
それというのも、弁護士業という業態の市場というのは、紛争処理にとどまらず、ありとあらゆる法務を含むべきものですが、紛争処理以外に乗り出そうとする弁護士があまりにも少ないからです。
現状で存在する業務でいえば、契約書作成、M&A関係、ファイナンス関係、上場関係といった業務がありますし、許認可申請、補助金申請、助成金申請といった他士業がメインでやっている業務もありますし、法務コンサルタントとして企業に入っていくという道もあります(インハウスローヤーとはまた違います。)。
そのように市場を拡大しようという動きがないがために、(行き詰っている弁護士がいるとしたら)不況が発生しているのではないでしょうか。
これに関して、そもそも市場というものは何か、と考える必要があります。
「弁護士の市場は紛争処理である。」という固定観念を持ってしまえばその範囲にしか市場は発生しません。
しかし、事業というものを一般化していえば人の何らかの悩みを解消するという意味で価値提供を行うものであり、人の悩みが何であるか、ということを考えればそこに市場ができるのです。
その意味で私が取り組んでいる家族信託というのは、ある意味でこれまで陽が当たらなかった悩みである「認知症」に法務面からアプローチしたという意味では1つの視点を切り開いたものといえます。
しかし、ここで誤解してはならないのは、「弁護士が契約書を作る能力があるから家族信託に参入した」という発想ではなく、「認知症によって高齢の方が資産管理に不安を持つことを解消するために家族信託を提案するようになった」又は「高齢の方の子が親の資産を管理しなければならなくなったときに、スムーズにできないおそれを除去するために家族信託に取り組んだ」という考え方を持つことが必要です。
なぜならば「契約書作成能力」は市場を作るものではないですが、「将来の不安の解消」や「資産管理の障害の除去」というのは人の悩みを解消し、価値提供を行うことができる新たな市場を作るものだからです。
そのように考えてみると、人の悩みは尽きないものであり、かつ、少子高齢化社会とはいえ多くの人が存在する世の中である以上、市場は無限に存在するというのが正しい発想なのではないでしょうか。