今週はひたすら新年の挨拶回りの1週間でした。
「弁護士が挨拶回り?」と思われる方もいるかも知れませんが、それもそのはず。
周りであまり挨拶回りに行くような弁護士はいないものです。
やはりそういうのが弁護士のハードルを上げているのでしょうか。
さて、最近よく受ける質問が、「家族信託を設定した場合には銀行口座は凍結されなくなるの?」というものです。
まず「凍結」というのは、カードや通帳と印鑑を持っていたとしても銀行の取引ができなくなることを指します。
問題としては、(1)委託者が死亡した場合、(2)受益者が死亡した場合、(3)受託者が死亡した場合にわかれますので、順に見ていきたいと思います。
なお、下記事項については筆者の私見であり、各金融機関において同様の対応がなされることを保障するものではありませんのでご留意下さい。
まず(1)委託者が死亡した場合について、委託者は信託財産として金銭の管理処分を受託者に委託しているわけですので、直接の管理処分権者ではありません。
このため、委託者が死亡しても、判断能力を失っても受託者による管理処分権限に消長を来すものではありません。
このため、委託者が死亡したとしても銀行口座は凍結されるべきものではありません。
次に(2)受益者が死亡した場合についても同様であり、受益者が信託財産の実質的保有者であるとしても管理処分権限は受託者にあるため、受益者が死亡したとしても銀行口座は凍結されるべきものではありません。
なお、受益者が死亡した時点で受益者の権利能力はなくなるため、受託者としてはその後の管理処分については変更を要するものであり、受益者の死亡により信託が終了するのであれば帰属権利者のために管理処分を行って清算手続を行わなければなりませんし、次の受益者が指定されているのであれば次の受益者のために管理処分を続けなければなりません。
さらに(3)受託者が死亡した場合があります。
おそらく金融機関としてはこの場合の取扱いが一番の問題になるものと考えられます。
すなわち、金融機関としては、基本的に受託者が預金者であるとしてシステムを運用しているものと考えられ、旧来と同じシステムを使っているのであれば預金者が死亡したものとして凍結の手続が取られるものと考えられます。
確かに信託された金銭に係る預金は受託者に管理処分権限がある以上、受託者が死亡した時点では直ちに他の者が管理処分権限を持つものではありません。
しかし、この事象は自然人としての受託者に相続が発生したこととは全く別のものとして扱わなければなりません。
すなわち、信託契約の契約当事者としての受託者が死亡したことにより、信託契約上の管理処分権者が不在になったものとして取り扱われるべきものです。
このため、通常の相続の場合と同様に受託者の全戸籍を集めなければならないものでもなければ、受託者の相続人による遺産分割協議がなければ誰かに管理処分権限を認めることができないものでもありません。
正しくは信託契約に基づいて次の受託者が選任されたことが確認されればその者に権限を認めなければなりませんし、信託契約に定めがない場合には信託法第62条に従って次の受託者が選任されたことが認められればその者を次の受託者として認めなければなりません。
とかく金融機関は法律に従った手続きを重視するのではなく、前例(本当は違いますが)を踏襲しようとし、自社にリスクのない方法を採ろうとするものですので、家族信託が完全に普及するまでは必ずしも上記の運用がなされないものだと考えられます。
誤った取扱いがなされるような場合には我々のような専門家が声を上げ、是正を求めることが必要です。
そのようなせめぎ合いを経なければ真に正しい形での家族信託は実現できないものと考えています。