先日ご紹介した本(「職業史としての弁護士および弁護士団体の歴史」)に続いて、今日は「日本弁護士史の基本的諸問題」という本を読みました。
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「日本弁護士史の基本的諸問題」
この本は前者に挙げた本に対する批判的な見解を述べた本で、従来の弁護士史の捉え方を根本から考え直そうという趣旨で書かれた本です。
その論調の当否はともかくとして、その中で私(荒木)が特に気になったのは以下の一節です(同書Kindle版No.1515より引用。)。
「明治二三年に『法学協会雑誌』は、「商業社会と法律家」と題する雑録記事において、「我邦現時商業社会の情況を見れは法律家と商業社会との関係は甚た薄きか如く商業社会か法律家を見るは訴訟代人たる資格に於てのみと云ふも過言に非るへし……〔しかし〕法律家の取るへき主なる職務は訴訟を未発に防かんとするに在るなり……訴訟代人たる資格は法律家の変格にして常格に非らす……法律家の関係したる取引は後に訴訟の目的となること少なく若し不幸にして訴訟となることあるも其争ふ処は明白にして裁判官代言人共に非常に労力を減するを得るなり……商業家の如きは己れの権利を完 からしめんと欲せば鋭敏なる法律家を雇ひ之をして其商業取引の一切に助言を為さしむへし……諸氏よ商略を以て己れの任となし個々の法律的行為は法律家を請ふて之に当らしめよ博学有為の法律家にして領を延て諸氏の招きを待つもの其数決して少なからす諸氏何を苦して自から能くすへからさることを為さんとする乎(159)」と、産業資本が予測と計算のうえに立つ本質から要求する予防法学の必要を、いちはやく論じた。」
古典文法で書かれているためやや読みづらいかと思いますが、これは弁護士の業務内容を論じた法律協会雑誌を引用して、弁護士が訴訟の代理人の業務ばかりを求められていることを評して本来的には大手企業の法務を担い、予防法務を実現すべきであることが明治時代から言われてきたことを紹介しています。
このことは驚くべきことに120年以上経過した現在もさして変わらない状況におかれたままとなっています。
このように弁護士が訴訟や紛争処理ばかりに重点を置くことに問題があることは別の記事でも何度も取り上げてきました。
このような状況が長らく続いてきた原因はいくつかあるのでしょうが、一番大きいのは弁護士が訴訟や紛争処理が一番収益につながりやすい構造を作ってきたことにあるように思います。
すなわち、訴訟代理権は(最近できた一部の例外を除いて)弁護士が独占してきたのであり、その依頼にかかる費用についても弁護士の間での協定(=カルテル)を結んで値下げがなされない構造を作り上げてきたという歴史があります。
一方で企業法務はどうかというと、よほどの大手企業でもない限りは総務の一部として片手間に行われてきたのが実際のところであり、大手企業では無資格者を独自の社内教育で育ててきたという経過があります。
弁護士がこのような企業に刺さっていこうとする場合には、株主総会対策、M&Aにおけるデューディリジェンス、独禁法関係の調査等、特定の分野における商品性を打ち出さねばなりませんでした。
しかし明治以来、真に企業に求められてきた(企業における潜在的なニーズがあった)弁護士像は、平時から業務内容に合わせて簡単にアドバイスを受けられるアドバイザーとしての姿だったのではないでしょうか。
そのニーズが顕在化し、弁護士に対するアプローチの仕方が変わったとき、弁護士の提供する法務が真に経済発展に役立つことになるのではないでしょうか。
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