(本記事は平成29年3月24日分の未投稿記事です。)
知り合いのIT関連の方からご相談を頂いた話を少々。
ご相談の内容というのが、
「IT顧問として契約している会社があるのだけれども、今後継続的に顧問料を払ってもらえるか心配なので、覚書程度のものでも作っておいたほうがいいの?」
というものでした。
よくありそうな質問なのですが、正確に分析するといろいろな要素が混ざっていることがわかります。
まず、「契約」と「契約書」の意味合いの違いです。
「契約」というものは、人と人との約束をいうのであり、基本的には口約束でも暗黙の了解でも双方が理解し、納得しているのであれば契約として成立します。
しかし、契約というものの種類や条件は無数に存在するため、「契約があればいい」というものではなく、その内容が問題になるわけです。
これに対し、「契約書」というものはあくまでも契約の内容が書かれた紙をいいます。
契約書は物理的な存在として、契約の内容を明らかにするための「証拠」となるものです。
また「契約書」という名前がついていないもので、「覚書」「合意書」「同意書」「誓約書」等といったものも契約書と同様の効果を持つものであり、(一部のものを除いて)形式に制約はありません。
この意味で上記の質問の中で「継続的に顧問料が発生する」という趣旨の部分については「契約」の問題であり、「顧問料を払ってもらえるようにする」という趣旨の部分については「契約書」の問題となるわけです。
その中で「契約」の問題としては、顧問契約という契約が民法上、どのように扱われるかを考える必要があります。
契約の種類や条件は無数、と書きましたが、契約の内容できちんと決めていなかった部分については民法によって解釈がなされます。
民法には「典型契約」というものがあり、裁判になると当事者間で決めた内容が典型契約のうち、どれが一番近いかという判断によって解釈がなされます。
そして顧問契約という契約は、継続的にアドバイスを行い、それに対して報酬を得るというものですので、民法上は準委任契約という類型に当てはめられるという可能性が高いものと思われます。
そして準委任契約とされると、契約の当事者は原則的に相互にいつでも契約をやめられるということになります。
そのため、「継続的に顧問料が発生する」ということを確保する、すなわち「契約を切られないようにする」ためには契約内容を工夫しておく必要があるということになります。
一方で契約書の問題としてとらえるのであれば、まず契約した内容を二義的な解釈を許さないように文章に起こし、双方の署名押印をなすということが基本になります。
契約の内容をうまく書き出すということについては色々とコツがあるため、このあたりのことについては弁護士の力を借りて頂くことになります。
ただ、当事者間で簡単なものを仮に作っておくというのも、後で裁判になった場合に有効打になる場面も多くありますので、もめそうだと感じた時にはとりあえずのものを作っておくのもよいでしょう。
また、「契約」と「契約書」の問題以外に実はビジネスの問題というものもあります。
これには様々な角度がありますが、「どうやったら気持ちよくお金を払ってもらえるか。」「どうやったらトータルとして得られる金額が一番多くなるか。」「どうやったら次回も注文してくれるか。」といったような問題です。
このような問題は「契約」や「契約書」の問題と混同されがちですが、実は全く別の問題なのです。
「契約」や「契約書」については弁護士は専門ですが、ビジネスの問題についての専門家は実は契約当事者自身であるはずなのです。
とはいえ、私(荒木)などでも多くの契約書をチェックしていますので、ある程度はビジネス上のアドバイスは行いますが、それはあくまでも「裏芸」としてやっているという位置づけになります。
このように契約にまつわることは意外と知られていないように思われますので、皆さまも今後少し注意されてみてはどうでしょうか。