(本記事は平成29年2月24日分の未投稿記事です。)
大英博物館で見た話をもう一つ。
大英博物館では世界各国の歴史的な物品や珍品を数多く展示していますが、その中に日本の物の展示コーナーもあります。
そこで目に留まったのが「柿右衛門の象」です。
この柿右衛門の象とは、オランダの商人から酒井田柿右衛門が依頼を受けて制作した象の像ですが(ダジャレではありません。笑)、非常にカラフルにできており、牙が極めて大きいなど、現実の象とは違って違和感を覚えるものです。
柿右衛門は現代でも有田焼の様式として残るように、焼物の大家として名を馳せた人物です。
その柿右衛門の評判を聞きつけたオランダ商人が、インド象の絵を柿右衛門に提供して制作を依頼したものであるといわれています。
当時、日本において本物の象を見た人はいなかったといわれており、柿右衛門は絵をもとに想像で象を作り上げたと考えられています。
この作品は現実の象と異なりはしますが、芸術的な価値は非常に高い作品であるとされています。
ここに柿右衛門の陶芸家としてのプロ魂を見ることができます。
一つには頼まれた仕事は断らないという姿勢です。
柿右衛門は食器を中心に制作を行っており、このような像を焼くということはあまり多くなかったものと想像されます。
しかも自らが見たこともない象という動物を作るということは極めて難しいことであり、仕事自体を断ってもおかしくないものでした。
そのような仕事を積極的に受けていくという姿勢が感じられます。
もう一つにはきちんとした成果を残しているということです。
制作資料としてはインド象の絵しかないという困難な状況のもとで作品を作り上げ、かつ芸術的な評価を受けうるものに仕上げるというのは並大抵のことではありません。
困難な状況のもとでも、他の作品に見劣らないものを制作しようとする気持ちがあったからこそ、この作品が完成したものと考えられます。
古今を問わずプロの仕事のあるべき姿を語る作品であると感じられ、自らの仕事にも刺激を与えられた一幕でした。