訴訟を行う際、弁護士は「生の事実」(依頼者の方が体験された事実)から訴訟に必要な事実だけを抽出して法廷に出します。
弁護士が聞き取る「生の事実」とは、紛争に関係があったりなかったり、時系列もばらばらであったり、書類のとの食い違いがあったり、曖昧な記憶に基づくものであったりと「混濁」し「混沌」としたものです。
このような生の事実を訴訟に出せるように加工するのですが、この加工の基準となるのが「要件事実」の考え方です。
「要件事実」とは、この事実とこの事実が認められればこの権利が認められる、というような公式です。
例えば、金銭を貸すという合意をした事実、金銭を渡した事実、返済期限の経過の事実が認められれば、金銭を返してもらう権利が認められるという具合いです。
このように「生の事実」から「要件事実」だけを抽出するのですが、聞き取りの段階では、借りた人の人間性の話、借りた人がどのように金銭を使ったのかという話、借りた人との関係の話、返してくれなければ老後をどう過ごそうかという話(?)などいろいろな話が出てきます。
弁護士にはこのような「生の事実」から効率的に「要件事実」を引き出すことも技術として要求されています。
このような作業は、清酒にもろみが「混濁」し、「混沌」とした状態の(?)どぶろくを安定させ(内容物を整理し)、もろみが沈殿したところで上澄みのみを掬うような作業に似ています。
蔵人が濃厚などぶろくから、すっきりとした上澄みの部分だけをいかに上手く抽出するかと同様に、弁護士が複雑に入り組んだ「生の事実」から整理された「要件事実」をいかに上手く抽出するかということが必要とされているのです。
「どぶの上澄み」というお酒はもっちりとした濃厚なとろみ、ジューシーな旨みが売りのようですので、是非味わってみて下さい(笑)。