定義
「詐欺」とは、欺罔行為(故意に事実の隠ぺいや虚偽の表示をしたり、相手が錯誤に陥っていることを知りながら真実を告げなかったりする行為)によって、相手を錯誤(表示の内容と内心の意思とが一致しないことを知らない状態)に陥らせる行為のことをいいます。なお、刑法においても「詐欺」というものがありますが、民法における「詐欺」とは定義が異なります。
要件と効果
詐欺の要件は、
(1)相手を欺くことによって相手方に一定の意思表示をさせようとする意志を持って、相手を欺くこと
(2)欺罔(ぎもう)行為(相手を欺く行為)があること
(3)だまされた相手が、欺罔行為によって錯誤に陥り、だました者が意図した意思表示をすること
上記の4つが詐欺の要件になります。
詐欺の結果として行われた意思表示を「詐欺による意思表示」といいます。
「詐欺による意思表示」は取り消すことができます。
関連条文
民法第96条、第120条
説明
「詐欺」に関する規定とは、詐欺を受けた被害者を保護するためのものです。詐欺を受けた者は、原則的に、詐欺によって行った意思表示を取消し、なかったことにできます。「詐欺による意思表示」が、無効(一度も有効に成立していないこと)ではなく、取消し(一度は有効に成立したが、取り消すことによってそれを遡ってはじめからなかったものにすること)可能としたのかについては、「詐欺による意思表示」は、意思表示の動機の形成過程において他人の違法な干渉があるものの、表意者の意思がともなう意思表示であるためと考えられています。
「詐欺による意思表示」は原則として取り消し可能ですが、「第三者による詐欺」の場合は、意思表示の相手方がその詐欺についての事実を知っていたまたは知ることができた場合に限り、その意思表示を取り消すことができます(民法第96条2項)。「第三者による詐欺」とは、例えば、Aさんが所有する偽物のつぼについて、Bさんから本物であるとだまされてCさんが買い取った場合などです。このような場合、CさんがBさんに騙されていたことをAさんが知っていた、あるいは知ることができた場合に限り、Cさんは意思表示を取り消すことができます(Aさんに対して代金を返せ、と求めることができます。)。逆に、CさんがBさんに騙されていたことをAさんが知らず、かつ知ることができなかった場合には、Cさんは意思表示を取り消すことができません(Aさんに対して代金を返せ、と求めることができません。)。これは、詐欺の被害にあった表意者(この場合のCさん)よりも、善意・無過失の(詐欺について知らなかったまたは知ることができなかった)意思表示の相手方(この場合のAさん)をより手厚く保護するための規定といえます。
民法改正の影響の有無
「第三者による詐欺」について、民法改正前は「相手方が詐欺の事実を『知っていた』場合」に限り、意思表示を取り消すことができましたが、改正後は、「相手方が詐欺の事実を『知っていたあるいは知ることができた』場合」に限り取り消すことができるとされました。これは民法改正以前から学説上有力な考えが明文化されたものであるため、実務的には大きな影響はありません。
判例と学説
農地売買に関する詐欺取消しの第三者が保護されるために仮登記を備えるべきと判断した事例として最判昭和49年9月26日(但し、先例性は否定されている。)。
契約書を作成する上での注意点
契約を結ぶことは避けるべきです。詐欺ではないかを確認するためには、契約の前提となる資料(例えば、不動産売買であれば、登記簿謄本、権利証、固定資産税の納税通知書等)を確認したり、取引慣行と異なること(例えば、契約書を作成する前に手付金を求められる等)が行われていたりしないかを確認しておくことが重要でしょう。
また、第三者として不動産等を転得するような場合についても、詐欺を行うような者から転得するような場合には必ずしも権利が保護されない場合があるため、取引相手についての事前の調査は必須でしょう。