投稿日:2020年10月29日

「事情変更の原則」とは

定義

「事情変更の原則」とは、契約の締結時には当事者が予想することのできなかった社会事情の変更が生じ、契約の内容をそのまま強制することが不合理であると認められるとき、その契約の内容を変更したり、契約を解除したりできる、という原則のことです。

要件と効果

判例(最判平成9年7月1日民集第51巻6号2452頁)では、「事情変更の原則を適用するためには、(ア)『契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができず、』かつ、(イ)『当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであること』が必要であり、かつ、(ウ)『右の予見可能性や帰責事由の存否は、契約上の地位の譲渡があった場合においても、契約締結当時の契約当事者についてこれを判断すべき』である。」とされています。
この原則の適用によって、契約内容の変更や契約の解除が認められることがあります。

関連条文

民法第1条第2項

説明

「事情変更の原則」は、「信義則(信義誠実の原則)」から派生したものとして理解されています。
民法第609条や第610条などがこの考え方を基礎にしています。また、借地借家法第11条や第32条はこの原則を認めたものであると理解されています。
しかし、この原則は明文化されておらず、例外的な救済措置としての法理であるため、適用する際は個別具体的に判断されます。

民法改正の影響の有無

特にありません。但し、民法改正に関する議論において、明文化すべきではないかとの意見が出ていました。

判例と学説

「建物賃貸借契約の当事者間で1年余の猶予期間の後建物を明け渡す旨の裁判上の和解が成立したが、当該和解が事情変更の原則により失効したとして、賃借人から請求異議の訴えが提起された事案」について、最判昭和29年2月12日民集8巻2号448頁。

契約書を作成する上での注意点

先述のとおり、「事情変更の原則」は「当事者にとって予見することができなかった」ことが要件となっており、契約書において想定されていなかったことが起きた場合の法理であるといえます。しかし、契約の効力の安定性を求めるのであれば、極力「事情変更の原則」が適用されないよう、隙のない契約書の作成を目指すべきでしょう。なお、令和2年に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大は、まさしく「当事者にとって予見することができなかった」とされるべき事態であり、今後、どのような適用事例が出てくるか留意しておく必要があります。