定義
「強迫」とは、他人(表意者)に対して害悪を示して恐怖心を生じさせ、その人の自由な意思表示を妨げる違法な行為のことをいいます。
要件と効果
強迫の要件は、
(1)相手に恐怖心を生じさせ、そのことによって一定の意思表示をさせようとする意思があること
(2)強迫行為があること
(3)脅された者は強迫行為によって恐怖心が生じそれによって強迫してきた者が意図した意思表示をすること
(4)強迫行為に違法性があること
上記の4つです。
他人の強迫行為によって行った意思表示は、取り消すことができます。
意思表示が取り消されると、それは最初からなかったものとして扱われます。
関連条文
民法第96条、第121条
説明
「強迫」に関する規定は、他人が害悪を示したことによって恐怖心を生じ、そのことによって自由な意思表示を妨げられた人を保護するためのものです。
強迫に基づく意思表示は取り消すことができます。「強迫」に基づいて行った意思表示の場合、その効果は誰に対しても主張することができるとされています。
「詐欺」による意思表示の場合は、善意・無過失の(詐欺の事実について知らなかった・知ることができなかった)第三者に対して取消しの効果を主張することはできない、という点で「強迫による意思表示の取消し」と「詐欺による意思表示の取消し」は異なります。これは、詐欺の被害を受けたものよりも。強迫された者をより強く保護しようとする考えによるものですが、批判もあるようです。
よく、刑法における「脅迫」と混同されますが、民法上の「強迫」とは近いものでありつつ異なるものです。
すなわち、民法上の「強迫」に当たるからといって直ちに刑法上の「脅迫」に該当するものではありません(もちろん、両者が重なる場合もあります。)。
民法改正の影響の有無
特にありません。
判例と学説
「強迫による意思表示が成立するためには、表意者が畏怖の結果完全に自由を失ったことを要するものではないとした判決」について、最判昭33年7月1日民集12巻11号1601頁。
契約書を作成する上での注意点
強迫行為によって結ばれた契約は取り消すことができます。しかし、強迫があったという事実を立証することは容易ではありません。強迫によって契約を結ばされそうになるような場合には、事前にレコーダーやビデオを回すなどの記録を取る方策を用意しておいたほうがよいでしょう。
また、強迫を受けたと思った場合には直ちにその時の状況をメモするなど、記録化が必要です。
主観的には強迫と感じたような場合でも、客観的な判断では強迫に当たらないとされる場合もあるため、独断に陥らないよう注意する必要があります。