定義
「虚偽表示」とは、表意者とその相手方とがお互いに示し合わせて真意とは異なる意思表示を行うことをいいます。
要件と効果
表意者がした意思表示は真意とは異なり、表意者とその相手方が互いにその意思があるように装う合意があった(通謀していた)場合、その意思表示は虚偽表示であり、無効となります。
しかし、この無効を善意の(虚偽表示について何も知らなかった)第三者に主張することはできません。
関連条文
民法第94条、第119条
説明
「虚偽表示」に関する規定は、虚偽表示による意思表示は表意者やその相手方の真意が欠けており、その意思表示による法律効果は生じないことについても合意しているため、当然に無効なものであるとして規定されています。
虚偽表示の場合には、意思表示において真意が伴っていないため、契約などの効力が発生しないとするものです。
しかし、虚偽表示の場合でも、表面的には意思表示があったように見えるため(例えば意思表示の内容が契約書に記載されているなど)、それを信用した他の人(第三者)はそのことを前提とすると不測の損害を受けてしまう可能性があります。
このため、そのような外観を信用した第三者を保護するため、善意の第三者は外観を前提とした権利を主張することが許されます(権利外観法理といいます。)。
例えば、Aさんが土地甲の所有権を移転する意思はないが債権者からの差し押さえを免れるために、Bさんもそれに合意した上でAB間の甲土地についての売買契約書を作成し、所有権移転登記をすることでその名義だけを変更した場合、この契約は虚偽表示であるため無効となります(民法第94条第1項)。
しかし、上記の例において、Bさんが甲土地の名義が自分になっていることを悪用して、AB間の虚偽表示について何も知らないCさんに甲土地を1000万円で売ってしまった場合、AさんはCさんに対して、AB間の甲土地についての売買契約は虚偽表示であるため無効であるということを主張することはできません(同第2項)。
また、「虚偽表示」に関する規定における「第三者」については、「虚偽の意思表示の当事者またはその一般承継人以外の者であってその表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者」とされています。
そのため、一般承継人である相続人や、代理人が虚偽表示を行った場合における本人などは「第三者」にあたらないとされます。
「虚偽表示」は「心裡留保」と、表意者の真意と表示行為の内容が食い違っているという点で共通していますが、「心裡留保」は表意者の単独の行為であるのに対し、「虚偽表示」の場合はそのような表示行為が表意者と相手方との通謀のもとになされている点で異なっています。
民法改正の影響の有無
ありません。
判例と学説
「虚偽表示における[第三者]」について、最判38年11月28日民集17巻11号1446頁。
契約書を作成する上での注意点
虚偽表示による契約は、その効力が認められません。
このため、売上げを立てたり、利益を移転させることだけを目的とした契約書を作るような場合には、虚偽表示としてその効果が認められない場合があります。
例えば、そのような理由で架空の売買契約を行った売主の会社が、後になって代表者が交代し、後の代表者が買主に対して売買代金を請求しても、認められないということになります。
一方で、虚偽表示の「第三者」は強力に保護されているため、虚偽表示による契約は、第三者との関係では虚偽表示だとして契約したことが実際に効果を持つようなリスクがあります。
上記の例でAさんは甲土地を売るつもりはなかったはずなのに、結果的に甲土地はCさんのものになってしまいます。
また、「第三者」の立場に立つ場合、一定の保護はされているとはいえ、善意であった(虚偽表示について何も知らなかった)ことを証明しなければなりません。
このようなリスクを避けるためにも、怪しいと思われる相手とは安易に契約を結ばないようにするべきですし、前提となる取引が行われた経緯や動機、取引として自然なものであったかなど、事前に確認しておくべきでしょう。