投稿日:2020年05月25日

「錯誤」とは

定義

「錯誤」とは、表示の内容と内心の意思とが一致しないことを表意者(意思表示を行った者)自身が知らないことをいいます。

要件と効果

(1)意思表示に対応する内心の意思を欠いている場合
(2)表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する場合
のいずれかの場合について
意思表示を取り消すことができます。
意思表示を取り消すことによって、契約などは最初から無効であったものとみなされます。

関連条文

民法第95条、第121条

説明

「錯誤」に関する規定とは、「間違ってハンコを押してしまった!」という場合や、「金額を勘違いしていた!」といった場合に、契約などをなかったことにできる、という民法における救済措置です。但し、契約の内容に本質的に関係のない場合(例えば、Aという倉庫から配送されるものを、Bという倉庫から配送されるものと勘違いしていたが、到着の日時や商品の品質に変わりがなかったような場合)まで取り消すことはできません。この判断基準が「要素の錯誤」か否かという点です。
その他、「動機の錯誤」(契約をするにあたってその動機が問題になるような場合)、この動機が契約の段階で表示されていたかどうかによって「錯誤」に当たるかどうかが判断されます。
これらの場合であっても、表意者が普通はわかるであろうことを見落としていたような場合には「重大な過失」があったとして錯誤が認められません。

民法改正の影響の有無

民法改正以前は、錯誤の効果は「無効」とされていましたが、詐欺や虚偽表示などとの比較から「取消し」が可能とされるようになりました。以前から無効と取消しとの違いを少ないものとする解釈が採られてきたため、実際上の影響は大きくないものと考えられています。

判例と学説

「動機の錯誤」について、最判昭和29年11月26日民集8巻2087頁。

契約書を作成する上での注意点

契約書を結ぶ者に錯誤があったかどうかについては、契約書に署名押印をする前の段階の事情をもとに判断がなされます。
このため、例えば不動産会社が一般の人に不動産を売る場合には、打合せの記録を残しておき、立地条件や眺望などについて説明をしたということを記載しておいたり、契約の前に(重要事項説明書もありますが)、錯誤の要素となりそうな場合にはチェックリストなどを設けて顧客がきちんと理解していることを確認するような対応を行うことが考えれます。

また、契約書の条項を決めるに当たっては二義的な解釈ができるような文言があると、誤解される可能性がありますので、錯誤の主張がなされることを避けるためには、定義を明確にした用語を用いるべきでしょう。