投稿日:2020年05月20日

「意思能力」とは

定義

「意思能力」とは、自らの行為の動機と結果とを認識し、この認識に基づいて正常な意思決定をすることができる能力のことをいいます。

要件と効果

意思能力を欠くもの(意思無能力者)の行った法律行為は「無効」とされます。
「無効」になると、その法律行為は行われた時点からすでに、一度も有効に成立していないものとみなされます。この場合、意思無能力者が当該法律行為によって受けた利益は、現時点で受けている範囲で相手方に返還する義務が発生します。

関連条文

民法第3条の2、第121条の2第3項

説明

「意思能力」に関する規定(「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」(第3条の2))とは、「すべての人は自らの意思に基づいてのみ、権利を取得し、義務を負う」という原則(私的自治の原則)に従い、自らの法律行為について正常な意思決定をすることができない人たちを保護するためのものです。
意思能力を有しているかどうかの判断基準は明確にされておらず、個別具体的に判断されます。(例えば、普段は正常な判断能力を有していても、たまたまその法律行為の時点で、泥酔していたことなどによって意思能力を有していなかったと判断されることもありうるということです。)「意思無能力による無効」は、法律行為を行った意思無能力者本人にとっても、その相手方にとっても、難しい問題があります。
まず本人は、法律行為の無効を主張するには、法律行為をした時点において自らが意思能力を有していなかったことを証明する必要があります。
一方、相手方は、有効であると信じて行った法律行為が無効とされることで、想定外の不利益を被ることになります。

意思無能力者を保護し、かつその相手方にも不測の損害を被らせないために、意思能力に近い「事理弁識能力」を一定期間、継続的又は断続的に欠いている人を保護するための「制限行為能力者制度」というものがあります。
これについては、別途記述します。

民法改正の影響の有無

民法改正以前は意思能力に関する規定はありませんでしたが、「法律行為の当事者が意思表示を行った時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」(第3条の2)と規定されました。
この改正は、これまで明文で書かれていなかった意思能力に関する法解釈を明文化したものですので、これまでの解釈と異なるところはありません。また、改正前から有力な見解とされていた、「行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において返還の義務を負う」ということも規定されました(第121条の2第3項)。

判例と学説

「意思能力を有しないことを理由とする法律行為の無効」について、大判明治38年5月11日民録11輯706頁。

契約書を作成する上での注意点

契約を結ぶ相手が意思能力を有さない場合、その契約は無効となってしまう可能性があるため、相手に意思能力があるかどうかの確認が重要です。
未成年者や高齢者などとは特に注意して契約を結ぶ必要があります。

高齢者の場合には、近時、認知症に罹られる方も多くいらっしゃいますので、意思能力に疑問がある場合には、医師の診断書を提出してもらったり、認知能力テスト(長谷川式簡易知能評価スケール等)の結果を提出してもらったりすることが、後に契約が無効とならないための対策となります。
逆に、意思能力がないと考えられる場合に、誰かに契約させられたとするとき(リフォーム詐欺など)合には、すぐに弁護士に相談することが必要です。